
あなたの愛犬はときどきスキップしたり足を着くことを嫌がるような素振りをしませんか?もしかしたらそれは膝蓋骨脱臼の症状かもしれません。
あるいは、予防接種のために動物病院へ愛犬を連れていったときに、獣医さんに「この子、膝のお皿が外れやすいですね」なんてことを言われたことはありませんか?それも膝蓋骨脱臼のことかもしれません。
この記事では犬の代表的な関節疾患の一つである膝蓋骨脱臼について解説していきます。
膝蓋骨脱臼(パテラ)とは?
膝蓋骨脱臼(業界ではよく「パテラ」と言われます)は小型犬に非常に多く見られる骨関節疾患の一つです。原因は多岐にわたりますが、とにかくトイ犬種等の小型犬は遺伝的な素因によってこの膝蓋骨の内方脱臼が非常に多いとされます。
よく言われるのが、本来膝蓋骨が収まるはずの「滑車溝」という大腿骨の溝が先天的に浅いからこの子は外れやすいんだよ、という指摘ですが滑車溝が浅いのは膝蓋骨脱臼の「原因」ではなくて「結果」であると現在は考えられています。
どういうことかと言いますと、成長期に正常な位置で膝蓋骨が存在していることによって滑車溝は深く形成されていくわけです。最初から滑車溝がしっかりと深いわけではありません。膝蓋骨脱臼が生じている個体では本来成長期におこなわれるはずの滑車溝の深化が十分におこなわれないために、結果的に滑車溝が浅くなると言われています。
パテラの概要については調べればいくらでも情報は出てきますので、この記事ではその治療法をメインにお話しさせていただきます。
パテラのグレードについて
パテラの重症度にはグレード分類というものがよく使用されます。具体的に次の表のようになります。慣れている人なら膝を触ることによってある程度のグレードもわかるかもしれませんが、しっかりしたグレード分類は獣医さんにしてもらいましょう。
グレード分類 | 基準 | 症状 |
グレードⅠ | 膝蓋骨を手で押すと脱臼させることができる。自然には脱臼しない。 | 無症状のことが多い。 |
グレードⅡ | 膝蓋骨が自然に脱臼したり戻ったりを繰り返している。 | 無症状から跛行まで様々。 |
グレードⅢ | 膝蓋骨が基本的に脱臼している状態だが、手で戻すことができる。 | 跛行していることが多いが、無症状のこともある。 |
グレードⅣ | 膝蓋骨が脱臼している状態で、手で戻すこともできない。 | 重度の跛行が見られることが多い。 |
治療法について
では実際にパテラであることが判明したときに、どのようにして病気を治療していくべきなのか解説します。
治療法は大きく分けると内科療法(保存療法)と外科療法(手術)があります。内科療法はグレードⅠまたはⅡで無症状の場合には勧められることが多い選択肢です。具体的には膝に負担を与えないように生活環境を整えたり、または減量やサプリメントの投与等を実施することがあります。
しかし内科療法はパテラを「治す」治療ではなくて進行を少しでも遅らせたり、症状を一時的に改善させることしかできませんので、完治を目指す場合には外科療法が必要になります。手術法は様々なものが考案されており、グレードや骨の変形具合によってそれらの複数の手術法を組み合わせて手術を実施することが一般的です。
手術が推奨される基準はおそらく動物病院や獣医師によって微妙に異なってくるでしょう。ある病院ではたとえグレードⅠで症状が何もないとしても「今すぐ手術しないと歩けなくなりますよ!」と強烈に手術を勧めてこられたとしても、違う病院に行くと「このぐらいなら様子見で問題ないですよ」と言われることもあると思います。
個人的にはパテラほど動物病院によって見解が異なる病気はなかなかないと思うのですが、これにはいくつかの原因があります。その原因の一つが、グレードⅣであっても日常生活に支障なく普通に歩いたり走ったりできる子も少数ながら存在するという事実です。超小型犬で後肢にかかる体重が少なく、大腿骨や脛骨の変形がほとんど見られない症例ではグレードⅣでも他の子と変わらないレベルで生活してたりすることもあったりします。
例えば、一歳未満の成長期の犬ですでにグレードⅢの場合は一般的には早期の手術が推奨されています。成長期の段階ですでに高グレードのパテラがあると骨の変形が起こってしまうため、その後重度な歩行障害につながる可能性が十分に考えられるためです。しかし、仮に現在はグレードⅢで今後グレードⅣに悪化する可能性が高いとしても、グレードⅣでも普通に過ごせる可能性があるのならわざわざリスクのある手術をしなくても…と考える飼い主さんは多いですし、そのように勧める獣医師も一定数存在するのです。
動物病院や獣医師によって提示される治療法が異なる原因として、その病院あるいは獣医師個人が整形外科が得意かどうか、という点も大きいです。一般的に動物病院といえば人医療の病院のように◯◯皮膚科とか〇〇眼科とか細分化しておらず、動物のことなら何でも見ますよという総合科診療スタイルの病院が多いです。ただし、整形外科だけは「うちは専門外なので…」と手術はできない病院も少なからず存在します。動物の整形外科には特殊な技術と高額な設備投資が必要となるため、街の開業医さんからすると手を出しづらい分野なんですよね。
それゆえに整形外科を得意としている設備の整った大きな病院ではどちらかというと積極的に外科手術を勧められ、整形外科の手術には手を出してない病院ではどうしても内科療法を勧められがちになってしまうのです。もちろん手術はしていないけれど十分な知識と経験のある獣医さんは適切な判断のもとに専門病院を紹介してくれたりしますので、一概には言えません。
まとめ
パテラには様々な治療の選択肢があるだけに獣医師によっても治療方針が異なることが多々あります。選択肢が多いこと自体は獣医療が発展してきた証でもあって決して悪いことばかりではないのですが、それに振り回される飼い主さんと動物は不幸ですよね。
ですのでパテラのことを相談するのであれば、整形外科に精通している獣医さんの診察を受けることをオススメします。かかりつけの動物病院が整形外科に力を入れているのであればもちろん安心ですし、そうでなければセカンドオピニオンを受けることも考えていいと思いますよ。
今どきはどこの動物病院もホームページに診療可能な内容を記載していることが多いので、整形外科の項目があるかどうかチェックしてみましょう。